心理学ミュージアム

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  • 健忘症って知っていますか?事故などで脳の一部を損傷したことによって、自分が経験したことを数十分後にはすっかり忘れてしまう“健忘症”になった人たちがいます。彼ら/彼女らは、事故後に経験した出来事を記憶することができず、あとで思い出すこともできません。健忘症はいろんな映画や小説で取り上げられています映画 『メメント』監督 クリストファー・ノーラン (2000) 映画 『博士の愛した数式』監督 小泉堯史 (2006) 原作小説 小川洋子 (2003)健忘症患者は未来の具体的な出来事を想像できない健忘症患者は、一般的な物事の予測はできます。来年の日本経済の見通し、10年後の科学技術などについて考え、予測することはできる。しかし、将来自分が何かを経験している場面については、想像することができないのです。健忘症患者の症例実験者:「あなたは明日、何をする予定ですか?」 (15秒間の沈黙)患 者:「わかりません」実験者:「質問を覚えていますか?」患 者:「私が明日することについてですよね?」実験者:「そうです。では、そのことを考えようとしているときの頭の中の状態はどのようなものでしたか?」 (5秒間の沈黙)患 者:「まっしろ。そのような感じです。」過去を想起する能力が低下すると未来を想像する能力も低下する高齢者が過去の出来事を想起するとき、若者に比べて具体的な情報が少なくなりがちです(曖昧な想起)。そのような傾向の強い人ほど、未来の出来事を 想像した場合にも、具体的な情報が減ることがわかっています(曖昧な想像) 。すなわち過去を想起する能力が未来を想像する能力を支えているのです。人間は日常的に、未来について考えていますある研究では、人間の1日の活動時間を16時間とした場合、およそ16分に1回の頻度で未来のことを考えていると報告されています。人は様々な場面、様々な目的で未来について考えています行動の計画を立てる自身のコントロール意思決定目標設定などでは、未来について考えることは、日々の私たちの生活にどのような影響を与えているのでしょうか?日常生活への影響の一例:食行動の実験太り気味、あるいは過食気味の人を参加者としました。参加者は2つのグループに分けられ、一方は未来のことを想像し、もう一方は旅行の記事を読んでその様子を思い浮かべました。自分の未来の経験を想像明日お小遣いを貰えたら、欲しかったシャーペンを買いに行こう!来週テストが終わったら、みんなとカラオケに行こう!旅行ブログを読んでその様子を想像ふむふむ。先週末に修学旅行で海外に行って…。ふむふむ。飛行機の中では友達と勉強をして過ごしたのね。その後、いろんな食べ物を見せられますが、まずは食べずにその見た目を評価するよう求められました。食べたいなぁ・・・。最後に、15分間の間にそれらを好きなだけ食べて、味と品質と食感を評価するよう求められました。その結果、自分の未来のことを想像していたグループは、旅行ブログの様子を想像していたグループに比べ、最後に食べ物から摂取したカロリーが少なかったのです!すなわちこの実験の状況では、自分の将来を想像しておくことによって、衝動的な行動を制御できたのです。まとめ経験したことを記憶し、それを想起するという能力が、未来のことを想像する能力を支えている。そして、未来のことを想像することは、人間が現在取り組んでいる活動の様々な側面に影響を与えているのです。引用文献Addis, D. R., Wong, A. T., & Schacter, D. L. (2008). Age-related changes in the episodic simulation of future events. Psychological Science, 19, 33–41.D’Argembeau, A., Renaud, O., & Van der Linden, M. (2011). Frequency, characteristics and functions of future-oriented thoughts in daily life. Applied Cognitive Psychology, 25, 96–103. Daniel, T. O., Stanton, C. M., & Epstein, L. H. (2013). The future is now: Reducing impulsivity and energy intake using episodic future thinking. Psychological Science, 24, 2339–2342.伊藤友一 (2014). 未来の出来事の思考-エピソード的未来思考-. 関口貴裕,・森田泰介,・ 雨宮有里 編, ふと浮かぶ記憶と思考の心理学, 95–108. 北大路書房.伊藤友一・梅田聡 (2018). 時間方向性からみた記憶と思考の神経基盤. 日本児童研究所 編, 児童心理学の進歩 VOL.57 [2018年版], 1–24. 金子書房.Klein, S. B., Loftus, J., & Kihlstrom, J. F. (2002). Memory and Temporal Experience: the Effects of Episodic Memory Loss on an Amnesic Patient’s Ability to Remember the Past and Imagine the Future. Social Cognition, 20, 353–379.Tulving, E. (1985). Memory and Consciousness. Canadian Psychologist, 25, 1–12.お薦め図書Michaelian, K., Klein, S. B., & Szpunar, K. K. (Eds.). (2016). Seeing the future: Theoretical perspectives on future-oriented mental time travel. Oxford University Press.スザンヌ・コーキン 著,鍛原妙子 訳 (2014) 『僕は物覚えが悪い:健忘症患者H・Mの生涯』 早川書房関口貴裕・森田泰介・雨宮有里 編著 (2014) 『ふと浮かぶ記憶と思考の心理学 : 無意図的な心的活動の基礎と臨床 』 北大路書房
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  • オススメ展示

    • やばい!バレたかも!?:懸念的被透視感
    • ないはずの形が見える?(主観的輪郭)
    • メタ分析(1)(基礎と歴史)(複数の研究結果から新たな知見を得る統計的手法 山田・井上(2012)より)
    • ことば以外で伝える(~非言語コミュニケーションと自己表現~)
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資料名:20220225_amnesia.pdf(1MB)

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