心理学ミュージアム

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心理学の古典的実験機器とは

どういうものかについて、具体例を使って説明しましょう。

人間は一度見ただけでどれほどたくさんの言葉を覚えることができるのでしょうか? 心理学は百年以上も前から、こうした能力も心の働きの一部として、正確にその能力を測ろうとしてきました。そのためには、覚えてもらう言葉を公平に同じ時間、順に見せなければなりません。たとえば、知らない言葉15個を3秒間ずつ順に見せ、そのあと紙に書き出してもらうという実験を考えてみましょう。あなたなら、いくつ答えられる自信がありますか?

上の図は、今から百年ほど前に、ヴィルトという人が考案し、チンメルマンというドイツの会社が製造した「ヴィルドの思考学習装置」です。

写真では2人が手で支えていますが、実際に使うときは黒い長方形の上の部分に付いている2つのフックを壁などにかけ、下から出ているおもり付きの鎖をたらして使います。黒い長方形の板の少し右寄り部分に横長の窓があるのが見えますか? ここに、覚えてもらうための言葉が1つずつ順に現れます。黒い長方形の板のうしろには円盤状の紙板があり、そこに言葉が放射状に書かれています。その様子を想像してみてください。

言葉が書かれている紙円盤の回転中心は、長方形の中央部分にあたります。もし、その円盤がゆっくり滑らかに回転すれば、窓には文字が下から少しずつ現れ、しかも文字は止まることなく下から徐々に消えていくことになります。それでは1つの言葉を3秒間見えるようにしたことになりません。

ヴィルトが考案したのは、
円盤を回転させる仕組みです。

下の図を見てください。色々な部品が長方形の中に入っていますが、この長方形の前に、言葉が書かれた紙円盤と、さらにその前に上の図の黒い長方形の板がおかれます。図の中の部品にはカタカナで記号が付けられています。「へ」は等間隔に歯の付いた円盤です。右上と左下に1つずつある「ト」は電磁石で、電気が流れているあいだだけ金属でできた「リ」を引き付け、電気が切れると「リ」の先に付いたツメが「ヘ」の歯にかかり「ヘ」の回転を止めることになります。「ヘ」の円盤は、ツメで止められていないときには「ホ」のおもり付き鎖によって時計方向に回転します。

さて、電気を右上の「ト」にだけ瞬間的に流すと、円盤にかかっているツメが外れ、「ヘ」がおもりの力で時計方向に回転します。しかしそれは少しだけで、すぐに右下の「リ」のツメが円盤の歯にかかり、回転が止まります。こうして、言葉1つ分の回転が素早く起こり、窓のちょうどよい位置に言葉が現れたところで止まるようになっています。3秒後、今度は左下の「ト」に瞬間的に電気を流すと、左側の「リ」のツメが円盤の歯から外れ、やはり言葉1つ分だけ円盤が回転します。この繰り返しにより、急速に動いては一定時間止まる円盤の動きを生み出す仕組みをヴィルトは考案したのです。

「ヴィルドの思考学習装置」は

日本にどのくらい残っているのでしょうか?

京都大学に1台、残っているだけです。ただし、それはチンメルマン製のもので、京都帝国大学時代にドイツから輸入されたものです。残念ながら、購入されたのがいつなのか、輸入した日本の業者はどこなのかなどは、記録が残っていないためわかりません。

古典的機器の中には、この機器のように外国のものを輸入して使っていたものばかりではなく、外国製のものを日本の製造会社が真似て作ったものも数多くあります。当時は、むしろ外国から機器を買える大学は少数で、日本での模造品の方が一般的でした。「歴史館」に登録されているものの中にも、外国製のもの、それを模造した日本製のもの、さらにはそれを改良したものがあります。現在わかっている範囲で製造会社名も示してありますので、同じ名前の機器であっても、そうした違いにも目を向けてください。

ほかにも説明が必要なことがたくさんあると思います。しかし、それは皆さんからのご質問を待ちたいと思います。「歴史館」の中で、わからないこと、知りたいことがあれば、
どしどし質問してください。

皆さんからのお便りをお待ちしています。

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