• 笑うと楽しくなる ジェームズ・ランゲ説
  • 楽しいときはどんな顔?楽しいときは,つい笑顔になるものです。笑顔にも,実はたくさんの種類がありますが,ふつうは「楽しい」ときのですね。楽しい顔以外にも,悲しんだ顔や怖がっている顔などいろいろありますが,これを表情と言います。表情とは感情を表すという意味なのです。
  • 「楽しいから笑う」? 表情が感情を表すものだとしたら,「感情→表情」という順序になりますよね?まず楽しいという感情があって,ニッコリとした表情が生まれる,ということです。「楽しいから笑う」。とても常識的な考え方ですね。
  • 「笑うから楽しい」? ところが,ウィリアム・ジェームズという心理学者は,これとはまったく逆のことを主張しました。「悲しいから泣く」のではなく,「泣くから悲しい」「怖いから震える」のではなく,「震えるから怖い」と言うのです。「表情(表出)→感情」という順序です。「笑うから楽しい」。 常識とは逆ですが,はたして本当でしょうか?
  • ジェームズ・ランゲ説 ジェームズとほぼ同時期に,カール・ランゲも,似たような説を唱えたことから,このような考え方は「ジェームズ・ランゲ説」と呼ばれるようになりました。これは19世紀末の話ですが,それから100年ほどたち,この説がある程度正しいことが,実験によって確かめられてきました。
  • たとえば,レアードは・・・ まず,参加者に「顔の筋肉の活動を調べたい」と嘘をついて,電極を顔に貼り付けします。
次に,「歯を食いしばって」とか,「ほっぺたを少し上げて」とか,特定の表情筋を動かすように指示を出します。

こういうときに,「笑顔お願いします」とか,直接的に指示すると,それだけで楽しい気分になったりするので,実験の本当の目的を隠しているのです。
  • そして 参加者にわからないように,何かの表情をしてもらうたびに,チェックリストに回答してもらいます。そのなかで,さりげなく「どのような気分なのか」も尋ねています。その結果,参加者は笑顔に操作されたときは,「楽しい気分」や「嬉しい気分」になり,逆に怒った顔に操作されたときは「怒った気分」の得点が高くなりました。
  • つまり実験の本当の目的に気づいた参加者は分析からは除外されるので,参加者は自分でも気づいていないのに,ある表情をしたら,その表情と対応する感情が生まれた,ということになります。「笑うから楽しい」ということが,実験的に示されたわけですね。
  • ほかにも,シュトラックらは・・・本当の実験の目的を巧みに隠し,「手足が麻痺した人でも,口でペンをくわえてうまく書けるようにトレーニングするための研究」
という名目で参加者を募りました。ある参加者は「唇でしっかりとペンをくわえて」と言われ,別の参加者は「唇を拡げたまま前歯でペンをくわえて」と言われます(次ページの図)。
  • 異なる表情の操作唇でしっかりくわえてペンが歯には触れないこと-->ムスッとした顔(不満げな表情)唇をやさしく拡げてペンが唇には触れないこと-->笑顔(楽しいときの表情)
  • そしてそれぞれのくわえ方で,文字を書く練習をしたあと,マンガを読んで,その面白さを評定してもらいました。その結果は仮説どおりでした。つまり,ペンを唇で覆って「不満げ」な表情になっていた参加者よりも,唇を拡げて「笑顔」に近い表情になっていた参加者のほうが,まったく同じマンガを面白いと判断したのです。本当の実験目的に気づいた人はいませんでした。
  • まとめ表情は,情を表すと書きますが,感情が生じてから,表情が作られるだけではありません。笑顔を意図的に作ることだけでも,楽しい気分になります「楽しいから笑う」ということも体験的にはありますが,「笑うから楽しい」ということも実証されているわけです。
  • さいごにみなさんは,緊張をほぐすためにどんな工夫をされていますか?心のなかで数字の「2」を数え,「にぃ?っ」と口角をあげてみてください。なんだか楽しくなってきて,緊張もほぐれるかもしれませんよ。
  • 参考文献Laird, J. D. (1974). Self-attribution of emotion: The effects of expressive behavior on the quality of emotional experience. Journal of Personality and Social Psychology, 29, 475-486.Strack, F., Stepper, S., & Martin, L. L. (1988). Inhibiting and facilitating conditions of the human smile. Journal of Personality and Social Psychology, 54, 768-777.
  • お薦め図書Cornelius, R. R.(1996).The science of emotion: Research and tradition in the psychology of emotion. Upper Saddle River, NJ: Prentice-Hall.   斎藤勇(訳)(1999).感情の科学?心理学は感情をどこまで理解できたか 誠信書房.春木 豊(編)(2002)身体心理学?姿勢・表情などからの心へのアプローチ 川島書店.
  • 製作者 菅村 玄二(関西大学)