• 「おふくろの味」がおいしい理由 意図の知覚が体験を変える
  • [おふくろの味]幼い頃から食べてきた家庭料理はおいしいものです。「レストランで食べるハンバーグもいいけど、やっぱり 母親のハンバーグが好き」と感じる人も多いのではないでしょうか。
  • でも、どうして「おふくろの味」はおいしいのでしょう?
  • 「小さな頃からその味に慣れ親しんできたから」これも理由の1つであるのは間違いないと思います。しかしここでは別の可能性に目を向けてみます。
  • それは、「(母親が)自分のために一生懸命作ってくれたと感じると、それだけでものが美味しく感じられる」というものです。ちょっとピンときませんか?では詳しく説明してゆきます。
  • [やさしさの味?]さて、最近驚くような心理学研究が発表されました。その名も “The taste of kindness(やさしさの味)” という研究です(Gray, 2012)。なんと、誰かからお菓子をもらう時に「この人は私を喜ばせようとしているんだ」というやさしさを感じると、お菓子がよりおいしく思えるというのです。
  • この研究は、ある人物が選んだお菓子を大学生たちに食べてもらい、その味を評価してもらうというシンプルなものでした。
  • ただし、1つだけある「仕掛け」がありました。お菓子には、それを選んだ人物からメッセージが ついていたのですが、その「メッセージの内容」が2種類あったのです。
  • 半分の大学生には「適当に選びました」というメッセージつきのお菓子を、もう半分には「あなたのために選びました」というメッセージつきのお菓子を渡します。
  • 「選んだ人物からのメッセージ内容以外は、まったく 同じお菓子」であったことにも注意して下さい。
  • この後で、実際にお菓子を食べてもらい、そのおいしさを5段階で評価してもらいました。
  • 渡したお菓子は同じです。さて大学生たちはお菓子のおいしさをどう評価したでしょう?はたして、渡す時のメッセージが異なる2グループの間で、評価に差は現れたでしょうか?言い換えれば、選んでくれた人のやさしい気持ちが感じられる時には、よりお菓子をおいしく感じられるのでしょうか?
  • 結果はこの通り。なんと「選んだ人のやさしい気持ち」が感じられる時に、よりおいしいと報告されたのです。
  • なお、「おいしさ」に加えて「甘さ」の評価も求めたところ、同様の結果が得られました。つまり、やさしい気持ちを感じることで、味覚そのものが変化したと言えます。
  • [意図の知覚が体験を変える]これ以外にも、興味深い実験結果が報告されています。同じ電気ショックでも、「悪意」が感じられるとより痛く感じる。同じメッセージを受け取るにしても、送信者がコンピューターではなく人間である時のほうが、よりうれしく感じる。どれも、「相手の意図を知覚すると、私たちの体験が変わる」ことを示しています。
  • 私たちは日々生活の中で、他者とプレゼントやメッセージを送りあったり、時には傷つけあったりもします。こうした時には「どんなプレゼント/メッセージを送ろうか」とか「相手にどんな被害があったか」といったことばかり考えてしまいませんか?
  • しかし他者との交流において大事なのは、「どんなことをしたか」だけでなく、「どんな気持ちからその行為を したか」ということなのです。プレゼントを送るときなどは、「あなたを喜ばせたくて」といった自分の気持ちを伝えてみましょう。きっと相手はより幸せな気持ちになってくれるはずです。
  • [まとめ]私たちの体験は、どんな意図を知覚するかによって変わります。これが「おふくろの味」がおいしい理由の1つです。そして、相手を喜ばせたい時には、何かをするだけでなく、「喜ばせたい」という自分の気持ちも同時に伝えると効果的です。
  • [参考文献]Gray, K. (2012). The power of good intentions: Perceived benevolence soothes pain, increases pleasure, and improves taste. Social Psychology and Personality Science, 3, 639-645. Gray, K., & Wegner, D. M. (2008). The sting of intentional pain. Psychological Science, 19, 1260-1262.
  • [お薦め図書]Bloom, P.(2010). How Pleasure Works: The new science of why we like what we like. New York: Norton. (ブルーム, P. 小松 淳子(訳)(2012). 喜びはどれほど深い?:心の根源にあるもの インターシフト)
  • [製作者]石井辰典(東京成徳大学)